母親からの抗体以降とワクチン接種の関係人間の赤ちゃんがお母さんからもらう母乳には、赤ちゃんを病気から守る免疫物質(抗体)を非常に多く含んでいます。抗体が赤ちゃんの呼吸器や粘膜の表面をおおって、大腸菌やチフス菌、ウイルスなどが侵入して病気になるのを防いでくれるのです。犬も同じです。 子犬は、初乳によって(最初に飲む母乳)あらゆる病気に対する抗体を母犬からもらいます。これを移行抗体といいます。しかし、困ったことにこの移行抗体は42日~150日で消失してしまうのです。以後は自分で抗体を作らなければいけません。 そこで、移行抗体が無くなりかけたときにワクチンを打つのです。 しかし、ここで問題があります。「犬の抗体はある一定期間で切れてしまうが、その切れる日にちを特定することはできない」という問題です。移行抗体がいつまで子犬の体内に残っているか、わからないのです。 なぜこのことが問題なのでしょうか?それは、この移行抗体が残っている時にワクチンを打っても、移行抗体がワクチン(抗原)をはねかえしてしまうので、犬の体内で抗体が作られないからです。 ワクチンがあるのにもかかわらず、子犬の感染症にかかることがなくならない理由のひとつがこれです。 移行抗体がいつ切れるかは、母犬からどれくらい抗体をもらっているかによって違ってきますが、実は血液検査をすれば、抗体の存在を確認できるようなのです。 ところが、検査は結果が出るまで1~2週間の日数が必要です。検査をやっているうちに、実は抗体が切れていて、感染症にかかってしまったら検査する意味がありません。 しかも、もしも「抗体がなくなっている」ことがわかり、急いでワクチン接種をしても、体内で抗体がつくられるまでに2週間程度かかります。同じく、この間にウイルスの侵入を許せば意味がありません。 ということで、「最も早く抗体が切れてしまうケース」を想定して、第一回目のワクチン接種をします。それが、最短で生後42日目といわれています。 しかし、その第一回目はもしかしたら移行抗体が残っていて、子犬自身が抗体をつくっていないかもしれません。なのでその後1ヵ月後(90日目)に第2回目のワクチンを接種します。 さらにさらに、この時期でもお母さん抗体ががんばっている場合があり、同じく抗体がつくられていないかもしれません。なので念押しで2回目から一ヵ月後(120日目)に第3回ワクチン接種をします。 かくして、「子犬には生後42日~60日を第1回目として一ヵ月おきに計3回」というワクチン・スケジュールができあがったわけです。 ところが、「最短で42日目に移行抗体が切れる」という説がスタンダードであれば、業界全体で42日目に第一回目のワクチンをする、とはっきり決めてしまえばよいようなものですよね。 ところが、そうはなりません。このワクチン接種の難しいところで「接種のタイミングが早すぎて失敗するより若干遅く接種したほうがまだマシ」というところがあるからです。 【最悪のワクチン失敗ケース ~ワクチン接種が早すぎる場合】 上の図のようなパターンで1回目ワクチンが移行抗体にはじかれた直後に、移行抗体がなくなってしまってウイルスに侵入されたら最悪のケースです。 なぜなら、当然生まれてからの日数が短いほど抵抗力はありませんから、移行抗体もなければワクチンによる自身の抗体もない状態でウイルスに接触したらまず発病してしまいます。完全ノーガード状態です。 それならば少しでも「移行抗体ががんばって外敵を排除している時期」よりも後にワクチン接種したほうがよいのです。「なーんにもない無防備状態」よりも「消えかかっている移行抗体がある」方がまだまし、というわけです。 ですから、現在の動物病院では、42日目よりも若干遅めの60日目(生後2ヶ月)を第1回ワクチン日としているとこが多いようです。 ちなみに、@wan!sdirectが所属する日本ペットショップ協会では、生後50日目を基準に第1回目としてブリーダーさんのもとでワクチンを接種してから、お客さんへとお届けしています。 ただし登録されているブリーダーさんの中には、「42日目に第1回目を必ずする」という人もいますし、「60日を超えてから打つ」という人もいます。 誰にも移行抗体が切れてしまう日がわからない以上、どの日にワクチンを打つべきかという正解は存在しないのですから、意見が分かれてしまってもこれは仕方がありません。 「いつ抗体が切れるかが瞬時に、正確に、簡単に検査できる機械」でも発明されれば別な話ですが(多くの善良なブリーダーさんはこの発明を本気で願っています)。 これで、ワクチン接種日のスタンダードが存在しない理由をおわかりいただけたでしょうか? 子犬が感染症で死亡してしまう理由のひとつが、この「移行抗体がなくなってしまう時期を特定できない」問題にあります。この問題は根本的に解決することはとても難しそうです。 だからといって、子犬が感染症にかかってしまうのは仕方がないのか。。。。というと実はそうではありません。 感染症は完全に外部要因による病気です。抗体が存在しないどんなに無防備な状態であっても、感染源と接触しない限り、発病することは100%あり得ません。 ウイルスと接触していないのに、突然子犬の体内からひょっこりジステンパーウイルスが現れた!なんてことは絶対にないわけです。 たとえば、感染症の代表例であるパルボウイルスは、「感染した犬の便、嘔吐物、それを触れた人の手や足の裏などから経口感染する」ことが原因です。 こういわれるとこわいなあ、という感じがしますが、ここで重要なのは、パルボウイルスはそのへんの空気に漂っていて、空気を吸い込んだら感染するわけでは決してない、ということです。感染した犬が近くにいなければ、まずかかるはずがない病気なのです。 たとえばウイルスのいない清潔な環境で生まれた子犬を、ブリーダーさんから直接譲り受けるのならば、ウイルスに接触する機会はほとんどありえないはずなのです。 では、なぜ冒頭のような事件がなくならないのでしょうか? それは、日本のペット業界の最大最悪のしくみである、「子犬を店舗で展示販売させるための流通」にあります。 ジャンル別一覧
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